粘着質ストーカー的恋心「犬夜叉」奈落と「BLOOD-C」七原文人

アニメ
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「BLOOD-C」劇場版を見直してて、思ったのです。

七原文人みたいに、「凄く沢山の人を巻き添えにして不幸にして、大それた野望を抱いているようで、本当に欲しかったのは、たった一人の誰かの心だった」みたいなキャラクターって、他にいたかな?と。

そうしたら、いました。

大好きな彼女への執着と愛情がものすごいんだけれど、アプローチのやり方を全力で間違えて、彼女に世界一嫌われている系の男性が、他にも。

今回は、そんな逆走タイプの男性達をご紹介します。

実際に視聴したら、「なんでもっと好かれるような行動をしないの!?」と、突っ込みたくなること請け合いです。

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「BLOOD-C」七原文人


Production I.G、CLAMP
アニメ「BLOOD-C」より引用

 

まずは前述の「BLOOD-C」における黒幕、七原文人。

シリーズ最大の敵であり、全ての黒幕であり、主人公・小夜の仇である、彼。

 

文人は優しいカフェのお兄さんとして小夜に近づき、その裏で彼女の記憶を操作し「古きもの」という怪物達と戦わせていました。

素性を露にした彼は小夜の世界を壊し、周囲の人々を殺し尽くして去りました。

小夜に、彼への激しい憎悪を植え付けて……。

 

文人への復讐を誓った小夜は、劇場版で敵を斬りまくり、血塗れになって文人を追い求めます。

しかし、探し続けた文人を目の前にして、薬物で身体の自由を奪われた小夜。

文人は人形のように倒れた彼女を優しく膝枕し、愛しそうに両手で頬を撫でます。

 

そう、文人にとって小夜は、何より強く美しく、心惹かれる対象でした。

彼女を操り苦しめたものの、その裏には、真っ直ぐな愛情と執着がありました。

ただし、発露の仕方がとてつもなく歪んでいましたが……。

 

第一、大勢の人を利用し実験台にするなんて、小夜は望んでいません。

それどころか、もっとも許せないやり方です。

 

しかし、文人が数々の非道な実験、研究を行ってきたのはいわば小夜の為。

人外の彼女と、吊り合う存在になる為。

また小夜の食料である「古きもの」が減り続けているので、人間から人工的に古きものを作り出す為。

富と権力を使い、世界中に干渉しておきながら、文人がやりたかったのは「小夜のご飯を用意する」こと。

 

長い時を生きる小夜が、これからも飢えずに生きていけるように……。

カフェの店主を装っていた頃、文人は小夜の食事を全て手配していました。

おやつやお弁当を含めて、全て。

もちろん、古きものの血肉を混ぜた特別製です。

 

結局彼がしたかったのは、全編通して「小夜に食事を与える」ことだったのかもしれません。

その手段は、絶対に許されるものではありませんが……。

 

最後、文人は小夜の刀に貫かれ、命を終え消えていきます。

彼女の唇に、口付けをして。

「勝者には褒美を、敗者には罰を」と、常々言っていた文人。

 

「駄目だよ小夜……これじゃ、僕が褒美だ……」という言葉通り、彼にとっては不本意な最後ではなかったのかもしれません。

あんなに焦がれた小夜に追われ、憎しみを向けられ、彼女の手にかかって終われたのですから。

何にせよ、小夜や犠牲者には迷惑極まりない、文人の行動でした。

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「犬夜叉」奈落


©高橋留美子/小学館・読売テレビ・サンライズ 2000
アニメ「犬夜叉」より引用

 

そして、凄く一途なのに方向を間違えて、粘着ストーカーかつ、ヤンデレになってしまった男性が、もう一人居ました。

それは「犬夜叉」に登場する黒幕にして、主人公達の宿敵。

そう、奈落です。

奈落は見た目は美男子ですが、その性質は陰険で執念深く、とても粘着質です。

 

彼の前身は、「鬼蜘蛛」という名の人間の盗賊でした。

大怪我を負って動けないところを、巫女の桔梗に救われ、手当てされます。

美しく気高い彼女に心を奪われた鬼蜘蛛は、自由に動く身体を手に入れる為に、数多の妖怪に自分を食わせます。

桔梗を連れ、暗い洞窟から逃げ出す為に……。

 

しかし鬼蜘蛛の身体は妖怪達に食われ、意識は消えてしまいました。

新たに生まれたのは、奈落という名の半妖怪の男。

桔梗を恐れる妖怪達の意思で、皮肉にも奈落は桔梗を手にかけてしまいます。

あんなに欲した相手を、自分の手で傷つけた鬼蜘蛛=奈落。

 

それから五十年、様々な悪事を重ねていた奈落の前に、蘇った桔梗が現れました。

ある妖怪の手で、作り物の身体で蘇った桔梗。

 

彼女の姿を前に、奈落は自分でも不可解な感情を覚えます。

それは、奈落の中にしぶとく残っていた、鬼蜘蛛の桔梗への思慕・執着……。

奈落は自分を恨み、殺そうとする桔梗を、手にかけることが出来ません。

不可解な感情を持て余し、桔梗に愛される犬夜叉に、激しい嫉妬を感じ……。

 

自分の中の人の心を追い出したり、かと思えばまた取り込んだり。

他人の手で桔梗を殺させようとしたり、離れた場所から彼女を監視したり。

犬夜叉の腕に抱かれる桔梗を目にした奈落は、激しい嫉妬と怒りに、家臣を虐殺します。

 

しかし奈落にとって、桔梗への想いは人間時代の名残り。

自分にとって認めたくない、弱さの象徴でした。

割り切ることも、捨て去ることも出来ない想いに、奈落は煩悶します。

 

そして奈落は願いを叶える四魂の玉を手に入れて、人間の心を消し去ろうと決心しました。

その為に、たくさんの人間や妖怪を巻き添えにし、犠牲にして……。

 

そして玉の完成を間近にして、とうとう奈落は桔梗をその腕に捕らえます。

彼女を自分の手で殺し、人間の弱さと決別しようとする奈落。

恐らくこの時が、奈落にとって生涯最大の幸福を感じた瞬間でしょう。

あれほど焦がれ、執着した桔梗を腕の中に捕らえた奈落。

 

彼はいたぶるように、桔梗に言葉を投げかけます。

「悔しいか、桔梗?お前は愛しい犬夜叉に会うことも出来ず、憎い儂の腕に抱かれて死んでいくのだ」

決して自分を好いてくれないならば、いっそ憎まれたい……そう思ったのかもしれません。

そして、他の誰でもない、自分の手で彼女を殺したいと。

 

桔梗にとっては、奈落の自分への執着は、迷惑以外の何物でもありません。

罠にかけられ、愛しい犬夜叉と引き裂かれ、殺され。

蘇った今も、事あるごとにちょっかいをかけてくる……。

 

桔梗が、絶対にこの手で奈落を殺す!と決意するのは、無理からぬことです。

ましてや、桔梗は巫女。

人々に災いを振りまく奈落を、放っておくことは出来ません。

 

「私は死なない……汚らわしい貴様の腕に囚われたまま、死ぬものか!」

ボロボロになった今も、奈落へ激しい軽蔑と憎しみを抱く桔梗。

それらを向けられた奈落は、とても嬉しそうです。

まるで、彼女に憎まれるのが快感だとでも言うように……。

結局犬夜叉が駆け付けて、桔梗を奪い返しますが……彼女はほどなく、犬夜叉の腕の中で命を終えました。

 

それからです、奈落が迷走し始めたのは。

あれほど執着した桔梗を、望み通り自分の手で殺した奈落。

それから後、彼は惰性のように四魂の玉の欠片を集め、主人公達にちょっかいをかけますが……。

 

そこには、桔梗を追っていた時のような、滾る情熱は見えません。

手下に目的を訊かれた奈落は、「何も無い」と答えます。

ただ今までの決着を着ける為に、主人公達と最後の戦いに臨んだ奈落。

 

結局追い詰められ、体は爆裂四散して散っていきます。

最後は四魂の玉に取り込まれ、永遠に戦う宿命を負わされる奈落。

ヒロイン・かごめちゃんの勇気ある行動で、その宿命は断たれ、奈落は今度こそ消滅しました。

 

消え去る直前、奈落はここにきてようやく初めて、素直に自分の心を認めます。

「そうだ、儂はただ……桔梗の心が欲しかった……」と。

 

お前、それを認めるまでに、どれだけかかってるんだー!

と、全視聴者が突っ込んだに違いありません。

視聴者にはそんなの、バレバレでした。

 

でも奈落自身は、どうしても認めることが出来なかった。

自分の中の、人間の心を……。

本当の望みは、四魂の玉で完全な妖怪になることでも、弱さを捨て去ることでもなかった。

たった一人の女性……桔梗に振り向いて欲しかった、ただそれだけなんです。

 

シリーズ開始から完結まで、奈落のせいで不幸になった者、命を落とした者は、数え切れません。

人間も妖怪も、その他の動物も……。

自分の身体から生み出した分身達さえ信用せず、用済みになればあっさりと殺した奈落。

 

桔梗の生まれ変わりであるかごめちゃんにも、心を動かすことはありませんでした。

彼にとって特別なのは、恐らく欲して止まない桔梗と、彼女に愛される犬夜叉だけ……。

そんな奈落は、ある意味誰よりも一途で、でも、やり方を間違えた男だよなあ……と、残念に思わずにいられません。

 

もう少し、桔梗の好感度を上げる行動をとれば良いのに……。

まあ、どんなに好感度を上げたところで、桔梗の心は犬夜叉の物なんですが……。

 

 

そんな文人と奈落は、作品は違えど、どこか共通するものを感じます。

アプローチの仕方を全力で間違った、二人の男。

馬鹿だなあ……と溜め息を吐きつつ、どこか嫌いになれないのも、また共通点です。

 

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