「囮物語」(オトリモノガタリ)。
千石撫子(せんごく なでこ)ちゃんのファンにとっては、避けて通れない作品です。
本作は人気の「物語シリーズ」の中でも、ちょっと異質なお話です。
ヒロインの撫子ちゃん視点で話が進むのですが、そのせいか常に何となく不安で、何が本当の情報か分からないという、危うさがあります。
一見して可愛いばかりの撫子ちゃんも、実は意外な面があり……。
危うさ、そして怖さを孕んだ彼女の名言を、ご紹介します。
物語シリーズとは?
吸血鬼体質の主人公・阿良々木暦(あららぎ こよみ)くんとヒロイン達の、日常と非日常を描く物語です。
不思議な存在・怪異と関わった者達。
スタイリッシュな絵に演出、長台詞。
シリアスとギャグの、絶妙なバランス。
癖があるけど面白くて、いつの間にか抜け出せない……そんな、見応えのある作品です。
入門編としては、テレビ一作目の「化物語」をオススメします。
千石撫子とは?
©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト
アニメ「物語シリーズ」より引用
千石撫子ちゃんは前述の通り、ヒロインの一人です。
主人公・暦くんの妹の友人で、中学の後輩でもある彼女。
長い前髪に小柄な体躯、愛くるしい顔立ち。
目を引くほどの美少女ですが、恥ずかしがりで内気。
いつも前髪や帽子で、顔を隠しています。
しかし想いを寄せる「暦お兄ちゃん」に対しては、時に驚くほど大胆なアプローチをします。
自室に招いて、薄着でツイスターゲームや王様ゲームをしたり。
かなり際どい振る舞いをして、視聴者をハラハラさせます。
もっとも、鈍感な暦くんはそれらを全て華麗にスルーしてしまうのですが……。
言動も幼く危なっかしいので、妹のように思わせる「妹キャラクター」。
しかしトンチンカンな発言もあり、「頭が良くない」と評されてしまうことも。
女の先輩に言われるがまま、スクール水着や、ブルマ&手ブラ姿を披露したこともありました。
「暦お兄ちゃん、ありがとう!」
可愛い舌足らずな声で言われたら、守ってやりたいと庇護欲を擽られてしまいます。
あどけなくてて頼りなくて、引っ込み思案な後輩。
皆に愛される存在。
しかし撫子ちゃんは、純真なだけの女の子ではありませんでした。
きっかけは、おまじない
化物語「なでこスネイク」で、撫子ちゃんの中学では怪しいおまじないが流行っていました。
逆恨みから同級生に呪われ、一時は命も危ぶまれた撫子ちゃん。
幸い、暦くん達の活躍で呪いは解けましたが……。
しかしおまじないが沈静化した後も、学校内の人間関係はギクシャクしたまま。
「誰が誰を嫌い、呪ったか」が明るみになり、禍根が残ってしまったのです。
学級委員である撫子ちゃんは、担任の先生にクラスの雰囲気を解決するよう命じられます。
ですが解決方法など無いし、そもそも撫子ちゃんはクラスにも人間関係にも、それほど興味はありません。
大人しいし、おまじないをやっていないから学級委員に任命されただけ。
そもそも生徒ではなく、教師がやるべきことなのですけど……。
でも本当は彼女は、俯いて問題をやり過ごすだけの、無気力な性格なのです。
他人がどうなっても、クラスがどうなっても、別に構わない。
「でも撫子みたいな子は、なぜかゼンリョウだと思われるんだよね……」彼女は、自分を冷静に分析しています。
クチナワさんの登場
そんな憂鬱なある日、撫子ちゃんは白昼に幻影を見るようになります。
シャワーへッドから、受話器から筆箱から、無数の白蛇がウジャウジャ出てくるというもの。
これには参った撫子ちゃんですが、更には一匹の白蛇が現れ、彼女に話しかけます。
彼は「クチナワさん」と名乗りました。
©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト
アニメ「物語シリーズ」より引用
クチナワさんは北白蛇神社の神で、信仰を失い忘れられ、消えかけているとのこと。
そして撫子ちゃんには、蛇に恨まれる覚えがありました。
かつて呪いを解こうと白蛇を捕まえて、彫刻刀で切り刻んだ過去があったのです。
罪悪感もなく残酷に蛇を殺し、しかもそれをコロッと忘れていた……。
そんなところに、撫子ちゃんの異常さがチラリと見えます。
クチナワさんはそれを容赦なく指摘し、撫子ちゃんに協力を要請しました。
罪滅ぼしに、クチナワさんのご神体であるお札を見つけること。
撫子ちゃんは、やむなく承知します。
追い詰められ、キレる撫子ちゃん
白いシュシュになり、撫子ちゃんの手首に嵌まるクチナワさん。
彼の声は、撫子ちゃんにしか聞こえないそうです。
クチナワさんに言われる通り、夜中に公園の砂場を探しますが……なんとその現場を、暦くんに見つかってしまいます。
心配した彼の家に連行され、泊めてもらうことに。
しかし暦の相棒・忍ちゃんに「無意識に可愛いさを利用している魔性」を、友人の月火ちゃんには「無気力で何もしていないこと」を、容赦なく指摘されます。
その上月火ちゃんには、バリアである前髪を切られてしまい……。
ダメージを受け、フラフラな撫子ちゃん。
更に登校すると、先生に「例の件」の進捗状況を訊かれ……気付けば、叫んでいました。
「うっせえんだよ!進展なんかある訳ねえだろ!俺様に、てめえの仕事押し付けてんじゃねえぞ!ああん?」と。
別人のようなドスの効いた大声で、凶悪な表情で。
「どうせ俺様は可愛いだけだよ!何を言われようが言われるがままだよ!」
「だけど、何も感じねえ訳じゃねえぞ!大人しいヤツが、本当に大人しいと思ってんな!!」
伝説のキレ撫子
あまりの豹変ぶりにおろおろする先生や級友を尻目に、撫子ちゃんは大股で教室へ向かいます。
ドアを蹴り開け、教壇へ近付き、生徒達(クラスメイト)を一喝。
そしてここから先が、私が最も好きな、キレ撫子ちゃんの演説。
ストレスやクチナワさんの影響、数々の出来事がきっかけとは言え……クチナワさんの言う通り、語られたのは紛れもない、彼女の本音。
©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト
アニメ「物語シリーズ」より引用
「おい、有象無象。返事はどうした、有象無象!!
いいかお前ら、現実を見ろよ!
過ぎたことでいつまでもウジウジして、貴重な青春時代を台無しにしやがって。
どんだけ無駄なことをしてんのか、分かってんのか!?
お前らは、友達だと思ってたヤツが自分のことを妬んでたら、それでもう友達じゃなくなるのか?
嘘をつかれたら、それで終わりか?
適当なところで折り合いをつけねえと、いつまでもこんな状況が続くんだぞ?
だったら、塗り替えなきゃダメだろうが!!
書き換えなきゃ、ダメだろうが!!
一時期は変なおまじないのせいで誰も信用できなかったけど、ちゃんと仲直りしました、って思い出によお!!
ああ、確かにお前たちは最低だ。
本音と建て前を使い分ける、偽善者だ。
地球上でもっとも下等な生き物だ。
だけど!
だけどどこかに、本当もあったハズだろうが!!
嘘だって、本当だったかもしれねえだろ?
嘘や、裏切りや、欺瞞や、偽善を許してやれる度量を持ちやがれ!
あああああんん!?
いつからお前たちは、人を選り好みできるほど偉くなったんだ?
好き嫌いで人付き合いしてんじゃねえ!!
俺様はお前たちなんか、大嫌いだ!
だけど!
クラスメイトだぜ、コンチキショウが!!!!」
撫子ちゃんのファンには、ショックを受けた人もいるかもしれません。
でも個人的には、普段のウジウジした彼女よりも、キレた時の彼女が好きです。
内容も「よくぞ言った!」と、拍手したくなるほど。
むしろ、嫌なことを直視せずに来た彼女の中にも、こんなはっきりした激しい感情があったことに、安堵したほどです。
この後自暴自棄になった撫子ちゃんは、思いがけない行動をとるのですが……その顛末は「囮物語」及び、続編の「恋物語」をご覧下さい。
クチナワさんの、驚きの正体(?)も含めて……。
コメント